「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(以下、EEAAO)を観に行ってきました。
マルチバース×カンフーというコンセプトを聞いたときは「アフリカンカンフーナチス」的なオモシロB級映画だと思っていましたが、『群像』の連載を読む限り、どうやらこのEEAAOがアメリカのZ世代に大人気とのこと。ネタバレを避けたかったのでその記事はじっくり読んでないですが、「なんだかよくわからないけどすごいことだけはわかる」的な事が書いてあった気がします。実際に見てみると確かにそんな感想です。
個人的な意見なんですけど、サブカル系の作品はライトにもヘビーにも鑑賞できることが大前提として必要だと思うんですよね。難解で抽象的な理屈をこねくり回すのは純文学とか前衛芸術の役割ですので、ざっと話の筋だけを追ってても楽しめるように作られてなきゃいけませんし、かといって表面上の面白さだけで中身がなければ、もはやそれはアヘンです。油ギトギトでこってりなのに実は栄養価満点みたいな、そんな作品をサブカルには期待しちゃうわけです。
そこへいくとEEAAOは最高のサブカルといっても良いでしょう。物語は淡々とコミカルに展開していくけれど、きちんと独創的な設定で作り込まれています。くどい説明など2ちゃんねるに巣喰うキモオタにしか需要無いんですよ。映画ってのは巻き戻しや一時停止をすることができず止めどなく流れてくる作品世界にどっぷり自分自身を浸した中で、「もしかしたらさっきのシーンってこういうことだったのかな」って自力で作品に近づこうとするのが一番の楽しみだとオレはおもうんです。
ちょっとネタバレになるかもですが、「塩やらゴマやらいろんなものをかけたベーグル」もブラックホールの性質を考えれば色々と合点がいきますし、マルチバースの世界分岐も作中でちょっと出て来た樹形図を考えればなんとなくはわかります。ただそれが全部が全部わからないというか、そのあたりが視聴者がこれまで見聞きしてきた教養と見識に委ねられている感があって、ここが作品に深みを出しているところだと思うんですよね。
北野武映画は「説明が少ない」ところが高く評価されているらしいです。EEAAOは全く経路の異なる作品ですが、振り返ってみると、こりゃアカデミー賞総ナメするわ、と思います。
『三体』好きな方、ぜったいこれも好きだと思うので是非見て欲しい。