車内は仕事を終えた人で混み合う時間だった。京阪はよく揺れる。おれは扉のすぐ横にもたれかかって文庫本を読んでいた。
中学生くらいだろうか、少女三人組が乗り込んできて扉の前でぺちゃくちゃと話し始めた。私服だったからもしかすると小学生なのかも知れない。おれは読書に集中していたから、彼女たちが何を話していたのかはわからない。
ふと視界の端で、一人の少女がもう一人の腰に手を回して身体ごと近づけるのを見た。それから二人の口元で口づけの音を聞いた。文字列を追っていたおれの目の動きは止まった。
二人のキスを見ていた三人目の少女がくすくす笑う。おれはどこまで読んだかわからなくなった。
丹波橋に着くとおれはそそくさと列車を降りた。直後、背後で少女たちの笑い声が爆発した。